データ保全モデル

フォールトトレラント(耐故障)システムの設計思想の中心は設計多様化 (Design Diversity) にあります. すなわち,システムを冗長に設計することにより,障害発生時の影響を最小限度にとどめるというものです. ハードウェアシステムでは冷待機冗長システムや温待機冗長システムなど並列冗長構成が有名であり, ソフトウェアシステムでは N バージョンプログラミングやリカバリブロックが代表例として知られています. しかしながら,ハードウェアとソフトウェアに限らず,並列冗長設計はシステムの高信頼化を保証できる反面, 開発・運用コストが極端に大きいため, 一部の社会的重要性の高いシステムにしか適用できないという問題があります. これに対して,環境多様化 (Environmental Diversity) に基づいた方法は低いコストで高信頼化を実現できる利点があります. 例えば,データベースシステムに代表されるファイル系システムでは, 情報のバックアップ環境を逐次変更することにより,効率的なデータ保全を行います. 具体的には,最適なチェックポイントスケジュールを生成することにより,障害からの回復動作(事後保全)と チェックポインティングによるオーバーヘッド(予防保全)のトレードオフを考慮したデータ保全を実現します. 厳密に最適なチェックポイントスケジュールを決定するためには, 再生報酬過程や待ち行列過程に基づいたモデル化が必要であり, 分散システムのように解析的にチェックポイントアルゴリズムを導出することが困難な場合には, 各種並列・分散アルゴリズムや確率ペトリネットシミュレーションなどの離散事象システム解析ツールを適用することが有効です. 当教育科目では,変分原理を応用したチェックポイント濃度による近似アルゴリズムや統計的一致性を有する不完全情報下での チェックポイントアルゴリズムを開発しており, さらに,確率近似や強化学習に基づいた適応チェックポイントアルゴリズムについて研究を行っています.