ソフトウェア信頼性の推定に関する研究

ソフトウェアテスト中に観測されるデータからソフトウェア信頼性を推定することは高信頼ソフトウェアを開発する上で必要不可欠な技術である. ここでは,従来からソフトウェアの信頼性推定に用いられてきたソフトウェア信頼性モデルをもとにして,ソフトウェア信頼性を推定する統一的な枠組みを提案した. 提案した推定アルゴリズムは EM (expectation--maximization) アルゴリズムを基礎にしており,従来の手法と比較して簡単な更新式で実現されている.従って,実装面において非常に有効な推定手法である. また,対象とする枠組みに包括されるすべてのソフトウェア信頼性モデルに適用することが可能であるため,現存するほとんどのソフトウェア信頼性モデルに対して効率的な推定アルゴリズムを提供することができる.


ソフトウェア信頼性モデルの開発と評価に関する研究

ソフトウェアテスト時における障害発生のふるまいを確率モデルによって表現したものはソフトウェア信頼性モデルと呼ばれ,ソフトウェア信頼性を測定する標準的なツールである. ここでは従来のモデルを拡張することで新たなソフトウェア信頼性モデルを提案し,その評価を行った. 具体的に,ハードウェア信頼性における加速寿命試験の概念をソフトウェア信頼性解析に応用することで,テスト環境と運用環境を統一的に取り扱うモデルの提案を行った. また,コンポーネントウェアと呼ばれるソフトウェアの挙動をマルコフ過程で記述することで,コンポーネントウェアに対する信頼性モデルの提案を行った. さらに,ソフトウェア障害を「システムハザードを誘発する障害」,「メッセージの表示障害」などのように,影響度別に分類することに着目し,ソフトウェア信頼性モデルに基づいたソフトウェア安全性評価のモデル構築を行った.


ソフトウェアフォールトトレラント技術に関する研究

コンピュータシステムの信頼性向上技術の一つであるソフトウェアフォールトトレラント技術に関する数理的な解析を行った.主としてソフトウェア若化と呼ばれる技術に関する性能評価を行った.ソフトウェア若化はメモリリークやフラグメンテーションに代表される経年劣化現象を予防的に保全するための技術である. 代表的な技法は予め定めたスケジュールでアプリケーションの再始動を行うことであり,これによりソフトウェアが正常に稼働する環境を常に保持することができる. ソフトウェア若化に関する研究では,いくつかのソフトウェア動作環境(例えばシングルサーバシステムやマルチサーバシステムなど)を想定し,時間制御による若化方策と処理ジョブ数に基づいた若化方策を提案し,数値解析による性能比較を行った.


コンピュータシステムにおけるシャットダウンスケジューリングに関する研究

コンピュータシステムにおけるシャットダウンスケジューリングに関する研究を行った.コンピュータシステムの使用状況を監視し,システムが利用されていないときに電力消費がより低い状態へ自動的に切りかえる機能はシャットダウンと呼ばれ,その移行タイミングは省電力効果へ大きく影響を与える. ここでは,コンピュータシステムを確率モデルで表現し,最大の省電力効果を得られる最適なシャットダウンスケジュールについて考察を行った. 具体的には,システム内でアクセスが待ち行列を形成するモデル(待機系システム)とアクセスのキャンセルが発生するモデル(即時系システム)という二つのモデルに対して,アクセスの発生がポアソン過程に従う場合,再生過程に従う場合,MAP (Markovian Arrival Process) に従う場合を考え,それぞれの環境下における最適シャットダウンスケジュールを導出した.


故障を伴う生産在庫システムの信頼性解析に関する研究

従来から生産在庫理論において研究されてきた (r, Q) 在庫モデルや EMQ (Economic Manufacturing Quantity) モデルに対して故障現象を考慮した確率モデルを提案し,信頼性および経済性の観点から方策の評価を行った. 特に,生産在庫システムにおける需要発生に関する確率過程を従来のポアソン過程から再生過程に拡張することによりモデルを一般化した. この環境下においては,解析的に最適な在庫補充方策の導出が困難になる.そこで実用的な管理指針を与えるため,拡散近似および位相近似と呼ばれる確率過程の近似手法を適用し,近似的に最適な方策を導出するための手続きを提案した. さらに,需要過程がポアソン過程の自然な拡張である MAP (Markovian Arrival Process) と呼ばれる確率過程に従う場合の最適方策を解析的に導出した.


待ち行列理論の基礎数理に関する研究

純粋な確率論,特に待ち行列理論に関する諸問題を取り上げた. 具体的には,バケーションと呼ばれるサービスを行わない期間を伴う待ち行列システムにおいて,系内客数やサービス時間に関する費用を定義し,経済性の観点から最適なサービス開始時間を制御する問題を取り上げた. その他の研究では,待ち行列システムの系内に客が一人もいない状態が継続する時間(空き期間)に基づいたシステムの解析を行った. そこでは,バケーションを伴う待ち行列システムにおいて,客の到着とサービスが再生過程に従う環境下で,客の到着時間間隔分布のクラスが IFR (increasing failure rate) あるいは DFR (decreasing failure rate) であるという条件に対応した平均空き期間の上下限値を導出した. また,平均空き期間の上下限値に基づいて,平均系内待ち時間の上下限値を導出した.


学位論文

A Study on the Optimal Shutdown Scheduling in Dynamic Power Management

(動的電力管理における最適シャットダウンスケジューリングに関する研究)広島大学(2001 年 3 月)

コンピュータを構成するデバイス(主にハードウェア)の電力状態を利用状況と負荷状況を考慮しながら動的に制御する技術は総じてDPM (Dynamic Power Management) と呼ばれている.DPM 技術に基づいたコンピュータシステムの省電力化において最も重要な問題は,消費電力量によって区分されたシステムの状態(スタンバイ状態,サスペンド状態,ハイバネーション状態)に移行すべきタイミングを如何に自動的に検知し,デバイスの電力消費状態を如何に管理するかにかかわっている.このような電力消費の異なる状態にシステムを切りかえる機能はシャットダウンと呼ばれ,一般的な PC 環境では自動スリープ機能として知られている.本学位論文では,コンピュータシステムの構成や使用環境に着目し,省電力化の観点から最適なソフトウェア制御技術を提供するための確率モデルを構築した.具体的には,(i) シングルユーザ OS (ii) マルチタスク OS (iii) 単一のインターフェイスをもつ周辺機器 (iv) 多数のインターフェイスもつ周辺機器を対象とした確率モデルを構築し,消費電力の効果が最も高くなるシャットダウンのスケジュールを解析的に導出した.また,アクセスデータから直接シャットダウンのスケジュールを推定するための統計的手法に関しても議論を行った.


Last Updated (Thursday, 25 March 2010 17:38)